米談義

2023-09-08

北海道 えみまる

Glocalという言葉を聞いたことがあるだろうか。

元々は多国籍企業の海外展開方針として、各地域(Local)の文化を考慮してグローバル化を目指そうという意味で1980年代頃より用いられた造語であるが、ここ数年地域創生のキーワードとして再度注目を集めている。

地球規模の視点をもって地域で活動するGlocalは、SDGsといったトレンドや地域課題解決といった喫緊のテーマを同時に反映できるゆえ好まれたのであろう。

これは単に地球環境に配慮するといったことに止まらず、例えば地域課題解決のために生まれた産業技術が海を超え世界の市場を席巻する、といったニュアンスも含まれる。例えば農業などはどの国にも存在する産業であり、農業DXを実現する新技術はその市場を世界中に拡大することができる。近年スタートアップのトレンドは専ら都市圏のサービス業であるが、この事実は第一次産業を経営領域に含むスタートアップを地方に呼び込む契機となり得る。地域課題解決に向け踏み出した一歩が、そのまま海を跨ぐ可能性があるのだ。

久方ぶりに帰省した奈良は確かに以前の活気を失っていた。馴染みの本屋、ファミレスは姿を消し、空き地が増え広かった空はさらにその広さを増していた。しかし同時に、新たな街の変化や試みに随分気づくことができた。地域はさながら新陳代謝の途中にあり、これから地方が活気を取り戻す予感を湛えていた。

この予感を、味覚で感じ取る機会を幸運にも持っていた。

 

今日も米を炊こう。

それも土鍋で。

 

自身が代表を務める東大起業サークルのオンライン交流会が控えていたため、今日は地方を存分に感じることのできる、しかし用意の簡単なアテに狙いを定めた。

広島県府中市出身の友人が勤める、広島県府中市アンテナショップNEKIで手に入れた広島牡蠣の缶詰である。ひろしま牡蠣のオリーブオイル漬けという、牡蠣の旨味を酸味で引き出す絶品の缶詰だ。

缶詰は湯煎するだけで、米の方は暑さもあり浸水は30分、強火にかけて7分半、弱火にかけて4分半、蒸らしの12分の約1時間。

東大のグローバルベンチャリングという論文輪読の授業ではイノベーションやスタートアップにおける「ネットワーキング」の大切さが何度か説かれていた。そのため料理の手間を省いた分当夜の交流会の準備は念入りに、何を話すかや最近のトレンドのインプットを抜かりなく行った。

米の炊き上がりのタイミングで、缶詰のアレンジのために七味や鰹節、刻み海苔などを用意し食卓についた。

土鍋の蓋を開けると、粒各々が逞しく出迎えた。

食前の挨拶は手短に、一口。甘み、食感、粘り気のどれもが優れたバランスの取れた味である。官能評価では「ななつぼし」並みの総合評価を受けているとのこと、確かに感じ取った。

そしてすぐさま、湯気をあげる牡蠣に誘われた。瀬戸内レモンの酸味が旨味の縁を強調し、海のミルクと名高い牡蠣汁を旨味の塊として舌に押し付けてくる。これが缶詰のクオリティかと面食らったまま、負けじと米を食らう。無論、良く合った。この牡蠣の後に七味はどうか、鰹節はどうか、刻み海苔はどうかと様々試したが、そのどれもが絶妙に交じり合い、辛味、旨味、風味が美しく調和していくのを感じた。

この米は普段食べるようなブランド米とは異なり、味はもちろんのこと、SDGsにも配慮しているそうだ。直播・高密度播種向けの品種で、農作業の省力化や、慣行栽培と比較し温室効果ガス(CO2)の発生を削減することができるなどの効果が期待される、「持続可能な」米である。この米は、従来の直播米品種「ほしまる」の「まる」と、おいしさと作りやすさで、「消費者も生産者も笑顔になる」の意味を込め「えみまる」と名付けられた。

地域課題の解決とともに環境への配慮も実現した「えみまる」はまさにGlocalの代名詞とも言えよう。これから多くの人に愛され、またその視座を世界へ広げる心意気はきっと日本全土に伝播し地方の活気を取り戻すだろう。奈良の再開発やひろしま牡蠣の缶詰も然り。地方が衰退の一途を辿るというのはもはや空論でしかなく、間違いなく地方は生まれ変わりつつあるのである。

気づけば、準備した多くの事柄を置き去りに交流会で「えみまる」の話ばかりしていた。

 

ECサイト えみまる1kg

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