蓬は、麻に連れられてなんぼのものである。
五月晴れの黄昏れるのに沿って自転車の灯を点け、鉄門を出無縁坂を下りながらふと思う。
幼少から友人に恵まれ楽しくも刺激的な毎日を過ごし、今では東大で学んでいる自分は、彼らに大いに帰依している。
今日自宅で飲むことになった高校の友人も間違いなく”麻”の一人だ。
法学部に進学した彼は官僚の道を志し、外務省、総務省、国交省のうち何処に進むかを決めあぐねているらしい。
日本を想う公共善と自身の理想像の狭間に立つ彼に薫陶を受け、近頃聞き入っているPod Castの「Re:gion Radio」を思い出す。
「地域経済のリアルがわかる」をキャッチコピーにするこの番組の4月から5月の放送、東京でソーシャルアジェンダの発信や官民共創に取り組んできたNEWPEACECEOの高木新平氏を迎えたゲスト回では、彼が地域のビジョニングに熱中し民間から「富山県成長戦略会議」に参画して活躍する様子を伺うことができる。
友人が官界から日本の変革を志すなら、自分もこの高木氏のように民間から日本を良くすることができないだろうか。そう考えさせてくれる麻は、やはり偉大である。
明治から昭和までの一時代を築き上げた東京大学の先学も、同じように日本を憂い変革を志し刺激を与え合ったのかと思うと独りでに胸が熱くなるのを感じた。
自然と、彼を招き入れるのに相応しいものはすぐに頭に浮かんだ。
今日も米を炊こう。
それも土鍋で。
富山県で15年の月日をかけ開発された「富富富」はまさに高木氏がドライブする富山の熱量の一つの表出であり、今宵人生を論じ理想の空を長駆せんとする我々にうってつけであろう。
腹も減っていたのですぐに封を開け浸水し、先刻合流した友人と米、酒のアテの準備に取り掛かる。
居酒屋で飲むほど財布に重みはなかった我々は、そうは言っても久しぶりの会合ということで何か胸躍るものをと小籠包を作ることにした。
小籠包の肉汁の肝であるゼラチンに鶏ガラの下味をつけ時短のため冷凍庫で冷やしている間に、玉ねぎ、ニラを刻み豚挽肉と混ぜ、塩と醤油、オイスターソースにごま油を適量混ぜ待機する。
ビールと材料ついでに購入した炭火鶏肉をつまんでいると話が弾み浸水とゼラチンの準備を終えるまで退屈することはなかった。
例によってタイマーを12分にセットしその間ゼラチンをタネに混ぜあわせ包む。
正直小籠包とは言い難い出来栄えの肉包みが一通り完成したところでタイマーがなり米は蒸らしへ。
小籠包の方はフライパンに油を敷いて少し焼き、水を回し入れ蓋をした。
一足先に完成した小籠包を食卓に運び、蒸らし最中の土鍋も卓へ移した。
タイマーがなるとすぐさま蓋を開け、食欲を掻き立てる米の輝きに目を見合わせた。
純白の瑞々しい米を二人の茶碗に山のように盛り付け、手を合わせ「いただきます」をはっきりと発音した。
米を口いっぱいに頬張るとあっさりとした口当たりののちじわじわ広がる甘みが口内に染み入っていく。食欲の満たされていくのを感じる。
次に小籠包を食べると鶏ガラに支えられた肉の旨味が、これまたじわじわと口内に染み入っていく。
米と小籠包の甘み、旨味がじんわり浸透していくのを体感し、力が漲るのを感じた。
この「富富富」は先に書いた通り長年の研究の賜物、病にも夏の暑さにも負けず育つコシヒカリである。
「富富富」は、立山連峰より流れ出る雪解けの「富山の」水、度重なる氾濫で北アルプスの湿原や森林地帯の豊富な栄養を含んだ肥沃な「富山の」大地、そして県全体で高温に打つ勝つ米づくりに取り組み“うるち米1等比率90%以上”を3年連続達成した「富山の」人が育てた富山づくしのお米であることを現している。
また同時に食べた人に「ふふふ」と微笑んで欲しいという想いも込められている。
富山の熱量を一身に伝える米を手に、日本を変える熱量を持つ友との談義は白熱し、酔いも回りいつしか眠りにつき、気付けば朝日を迎えていた。
土鍋に少し残り、ろくに保温もしていなかった米を食べると、未だ冷めやらぬ富山の熱量がそこにあった。
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