米談義

2023-11-27

山形県 雪若丸

水も風も土も、何もかも違う環境。

異国の地へ踏み入れるのは今回が初めてではないが、状況は違っている。

小旅行などでなく、留学である。

このエッセイを始めてから地方への思いは強まるばかりで、PEファンドで働く自身のバックグラウンドと重ねて、日本の後継者不足、ひいては地方創生の希望ともなり得る「サーチファンド」を学びにアメリカはサンフランシスコに来たのである。

サーチファンドは簡単に言ってしまえば優れた経営者候補人材が単独でお金を集めて企業を買収し、5年から10年かけて企業価値の向上に努めた後IPOや事業会社等への売却でリターンを得るモデルである。1984年にStanford大学で生まれ、元来MBA生のEntrepreneurship Through Aquisitionとして捉えられていたが、近年事業承継の手法として日本で注目を集めている。

優れた経営者プールを確保できれば、地方の中小企業の後継者となり経営改善やロールアップを繰り返しながら地方経済を同時多発的に活性化していけるわけである。

意気揚々に乗り込んだサンフランシスコの街並みは東京と大きくは違わず、リモートワークの浸透で形骸化したオフィス街に吹く、乾いた風に乗るWeedの匂いが強烈な印象を残した。

この街で2年、暮らすのだ。

感慨もひとしおだが、看過できない悩みを一つ、抱えていた。

米である。

インディカ米系統を日本人の舌が美味しく感じないのはさておき、こちらで流通しているカリフォルニア産のコシヒカリなどはとにかくもさもさして甘味もハリも粘りもなく、暮らしが貧しくなったように錯覚するほどであった。

もちろんこちらの農家さんも大変な努力をされているのだろうが、日本の豊かな風土のもと育て上げられた地方農家さんの血汗の結実「ブランド米」を知ってしまった自分には到底耐えられる代物ではなかった。

なんとか干からびた体を奮い立たせ、手を伸ばす。

 

今日は’米’を炊こう。

それも土鍋で。

 

こちらに土鍋を持ってきたのは一苦労ではあったものの、自分の選択を疑う余地はない。

美味しく炊くのにはまったくもって不可欠なものである。

蓄熱性の高い土鍋はお米を時間をかけてじっくり加熱し、また蒸らしにおいては温度の下がり方が緩やかで、米粒の中心まで熱と水分を十分に届かせることができ自然と理想的な炊き方となる。

ただ、こちらに来てからというもの、土鍋を使いはするものの、電熱線コンロのキッチンや硬水、カリフォルニア米などの環境の中でどうすれば美味しいお米を食べられるものかと苦心し、白米ソムリエ/お米ソムリエの資格を取り、炊き方やお米自体の知識を蓄え、試行錯誤を繰り返した。

カリフォルニア米でも、得た知見を総動員すればそれなりに逞しくすることができるようになった。

今の自分が炊くブランド米はきっと。

期待が膨らむ。

封を開けると米の香りが鼻をなで、思わず笑ってしまう。ここまで違うか。

半透明で形の揃った米粒を水を入れたボウルに優しく入れる。

米用の脱臭剤があるほどに米は臭いを吸収しやすいため、洗米中に肌糠の臭いが移らないようサッと洗う。また米は繊細で、割れると炊飯後のべたつきに繋がるため、金網の使用やゴシゴシ洗米するということは極力避ける。

気休めではあるが、浸水の際に使用する水は購入した浄水機から。

これまで浸水は30分から1時間の間で取っていたが、近頃は2時間確保している。米は水分量が命。事前に浸水すれば炊き上がりのみずみずしさは格別となる。産地・品種問わず米が完全に吸水するのが120分というのを耳にして以来、必ず2時間漬け込むようになった。

浸水後は丁寧に土鍋に移し替え、電熱線コンロを最大出力にして13分30秒待ち、弱にして4分。何度も炊飯する中でこれがベストな配分だと結論づけた。

蒸らしは10分程度。この間、牛挽肉に玉ねぎ、ニンニク、生姜、塩胡椒、鶏ガラ、片栗粉、卵を混ぜた肉団子のスープを作った。スープにはレタスと肉団子のみのはずが、肉団子から溶け出した卵がうまい具合にスープの舌触りを重厚にした。

米国に来て以来おざなりにしていた食前の挨拶は、心からの感謝に変わっていた。

山形から遥々、この手に収まるまでの旅路を思う。

 

頂きます。

内蓋を取ると、勢いのある芳香と清潔感に溢れた輝きに圧倒される。見目よく五感で楽しめる。これぞブランド米である。一粒一粒が我こそがと主張して出迎える。

口の中でも主張が弱まることもない。内壁を刺激する無骨な大粒から、若々しい甘さを感じる。

ブランド米の中では控えめな甘さでも、カリフォルニア米とは比べるのも恐れ多い、逞しい甘み。

台湾出身のルームメイトも、普段食べる米との違いに目を見開き、どこか誇らしい気持ちになった。

食感と甘さが明らかに違うと言ってくれ、素直に喜んだ。

肉団子のスープと共に食べても、頼もしい食感が口中調味を下支えし、ニンニクや生姜の香りや鶏ガラが拍車をかける牛挽肉の旨味と混ざり合い、多幸感を演出した。

溶け出した卵の濃厚なスープと、張りと粘り気のあるしっかりした食感で持続力のある米がまたよく絡む。

どんな料理にも合うのが、ブランド米たる所以だろう。

今日食べたのは雪若丸。販売開始以来食味ランキングで13年連続特A評価を取得した「つや姫」の弟分として登場し、自身も販売開始以来5年連続特A評価の山形の新生ブランド米。

その実力は申し分なく、「つや姫」を生み出し日本で最もブランディング戦略に成功したと言われる山形県庁「ブランド化戦略推進本部」の支援のもと、「つや姫」に似た可愛らしいパッケージで販売されている。

よく比較される「つや姫」に比べてあっさりした味わいではっきりした粒感であり、より調理に適していると言われる。

「雪若丸」は、しっかりした粒感や稲姿が男性的であること、際立つ白さとつやのある外観が雪のように美しいことを想起させる素敵な名前だ。

雪国山形の溶け出した雪は豊かな水源となり、豊かな恵みをもたらす。カリフォルニアでは決して再現され得ない、自然の慈恵。

やはり米は世界に冠たる日本の宝だと確信する。食こそが、決して世界に譲ってはいけない矜持なのだ。

冷え切っていた大和心に、小さく、しかし逞しく、この地で何事かを成す決意が芽生えた瞬間であった。

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